月の上の観覧車

荻原浩先生の『月の上の観覧車』を読了しました。


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荻原浩先生は『海の見える理髪店』で第155回直木賞を受賞されています。

この『月の上の観覧車』は8篇の短篇小説が収められた一冊です。


▪️トンネル鏡…東京で家庭を構えた男が、紆余曲折を経てひとりで故郷に帰る列車の中でこれまでの人生を思い返すお話。

▪️上海租界の魔術師…主人公の少女が、若き頃に上海でマジシャンをやっていた祖父の人生を振り返るお話。

▪️レシピ…定年退職する夫の帰宅を待ちながら、自分のレシピノートを見てこれまでの恋を思い出す主婦のお話。

▪️金魚…妻を亡くしてうつ状態になった男性が、たまたま手に入れた金魚を通して在りし日の妻との日々を回想するお話。

▪️チョコチップミントをダブルで…離婚して妻に引き取られた娘と、年に一度だけ会う男のお話。
どうしてこうなってしまったのか、彼は自分のこれまでを振り返る。

▪️ゴミ屋敷モノクローム…市民からゴミ屋敷を何とかして欲しいと言われて出かけた若い公務員が、そこに住む老婆の思い出に触れるお話。

▪️胡瓜の馬…故郷にいた頃に恋人として付き合っていた幼なじみの女の子のことを回想する男性のお話。

そして表題作
▪️月の上の観覧車…老境の男性が夜の観覧車に乗って、自分の人生をゆっくりとなぞるお話。


いずれも主人公は40代以上で
進行方向を見つめる時代を過ぎ、回れ右をした世代の人生と家族のお話です。

良い意味で退屈なお話ばかりです。
安心して読める作品ばかりです。

最近、中村文則先生のエキセントリックな作品にばかり触れていたせいか、どれも物足りない感は否めませんが

とはいえ、読み進めていくうちに物語にどんどん引き込まれていきました。

本書は一気に読了するのではなく
気が向いた時に、一品料理を味わうように、丁寧に読んでいくのが良いかと思います。

緋い猫

浦賀和宏先生の『緋い猫』を読了しました。

初読みの作家さんです。

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浦賀和宏先生です。

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1978年神奈川県生まれ…以外の経歴は不詳です。

十七歳の洋子は佐久間という工員の青年と恋に落ちる。
だが仲間二名が殺害される事件が起き、犯人と疑われた彼は姿を消す。
洋子は佐久間を追って故郷である東北の寒村を訪ねると、かつて東京で彼が飼っていた三毛猫を見つける。
村人らは佐久間はいないと口を閉ざし、洋子を監視しはじめた。
恋人との再会を信じる洋子を待っていたのは、あまりにも残酷な衝撃の結末だった……。


装丁がステキだったのと
息を飲む、衝撃的すぎる結末!
という帯の言葉に惹かれて購入しましたが

なんじゃぁコレは〜

って作品でした💦

前半は確かにミステリーでした。
しかし後半はバイオレンスホラーさながら
目を覆いたくなるような描写の数々…
気持ち悪かったです😭

設定が昭和24年の寒村ということもあり
まるで横溝正史の映画のような世界でした。

ミステリーにありがちなドンデン返しなどはなく

ざまぁみろ!

的な展開がこれでもかと続き

そして最後はメルヘンチックに終わる…

終わるんだけど

はぁぁぁ?

って思わせる『あとがき』が付いて終わる。

もう読者を不快にさせるためだけに書かれたとしか思えない…

そんな作品でした😭

文章は平易で読みやすく
2時間くらいで読了できますが
後を引くったらありゃしない💢

これが浦賀先生の手法というか策略だと気づいた時にはもう手遅れでした💦


何でも来い!…っていう覚悟がないと読めない作品です。
特にお薦めはしません。
もし読んで夢に出てきたらゴメンなさい。

絶対正義

秋吉理香子先生の『絶対正義』を読了しました。


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秋吉理香子先生です。
チャーミングなお方〜☺️

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4人の女たちに届いた『思い出の会』への招待状。
差出人は、5年前に殺したはずのあの女……。
正義のモンスター。
あんな女、本当は大嫌いだった。
範子はいつでも礼儀正しく、一つの間違いも犯さず、また決して罪を許さない。
なにより正義を愛していた。
和樹は、痴漢から助けてもらった。
由美子は、働かない夫を説得してもらった。
理穂は、無実の罪を証明してもらった。
麗香は、ピンチを救われチャンスを手にした。
彼女たちは大いに感謝し、そして、のちに範子を殺した。
しかし死んだはずの範子から招待されたパーティで、4人が見たものとは……?


いや〜
めちゃくちゃ面白くて
めちゃくちゃ後味が悪かったです💦

正義は残酷であり
時に人を絶望させる

…というのをまさに再現したお話でした。

主人公の範子は“ウザい”を通り越して

気持ち悪かったです😭


精神科医として範子に病名をつけるとしたら…

う〜ん

難しいですね〜💦

彼女は正常ではないです。
病んでいると思います。

けれどもしっくり馴染む病名が見つかりません。

だから怖いのです。
だから4人の同級生たちは範子から離れられなかったんだと私は思いました。

物語のラストはとても静かなものでしたが

とても怖かったです😭😭


お薦めの一冊です。
是非❗️

彼女はもういない

西澤保彦先生の『彼女はもういない』を読了しました。



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西澤保彦先生です。

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母校の高校事務局から届いた一冊の同窓会名簿。
資産家の両親を亡くし、莫大な遺産を受け継いだ鳴沢文彦は、すぐさま同学年の比奈岡奏絵の項を開いた。
10年前、札幌在住だった彼女の連絡先が、今回は空欄であることを見て取ったその瞬間、彼は連続殺人鬼へと変貌した。
誘拐、拉致、凌辱ビデオの撮影そして殺害。
冷酷のかぎりを尽くした完全殺人の計画は何のためだったのか……。
青春の淡い想いが、取り返しのつかないグロテスクな愛の暴走へと変わるR‐18ミステリ。


いや〜
面白かったです。

レイプシーンなど、グロテスクな描写が多くて途中で断念したくなりましたが

文体がとても読みやすくて

気がつけば読了していました。


完全犯罪の巧妙さもさることながら

最後の大どんでん返し‼️

あー
やられたー💦

って思わず声に出してしまいました。


いろいろな伏線が回収された挙句の
あのエンディング…

ホント圧巻でした。

そしてタイトルの意味が改めてわかりました。

なんか切なかったですね😭


本書はそのタイトルがネタバレになっているとのことで
その後『狂う』というタイトルに改変されたそうです。

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お薦めの一作です。
是非‼️

代償

伊岡瞬先生の『代償』を読了しました。


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伊岡瞬先生の作品は初めてです。

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平凡な家庭の小学生・圭輔は、ある事故をきっかけに遠縁の同級生・達也と暮らすことになり、一転、不幸な境遇に陥る。
寿人という友人を得て苦境を脱し、長じて弁護士となった圭輔に、収監された達也から弁護依頼が舞い込んだ“私は無実の罪で逮捕されました。
どうか、お願いです。かつての友情に免じて、私の弁護をしていただけないでしょうか”。
裁判を弄ぶ達也、追いつめられた圭輔。
事件を調べ始めた寿人は、証言の意外な綻びを見つけ、巧妙に仕組まれた罠をときほどいてゆくが……。


サイコパスのお話です。
恐怖よりも嫌悪を感じるストーリーでした。

いつもは速読の私ですが
次なる展開が知りたくて
この本に関してはさらに速読となりました。

終始イライラしながら読んでいましたが
(達也の悪意や操作性よりも圭輔の優柔不断と弱腰に対して)

きっとラストはスパッと斬ってくれるのではないかと期待しつつ

でも意外とあっさりした終わり方でした。

とても面白かったのですが、もっと派手なエンディングを期待していた私としては物足りなくて

100点満点の90点の評価です。

この著作…小栗旬さん主演でドラマ化されたようです。
機会があれば観てみたい❗️

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私の大好きな作家である中村文則先生の作品にも悪人は出てきますが

本作の達也はそれを凌ぐ凄まじさでしたね。


以前このブログでも紹介した『クリーピー』のサイコパス(映画では香川照之さんが演じた)よりも

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『黒い家』のサイコパス(映画では大竹しのぶさんが演じた)よりも

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達也は最強でした💦


文庫で450頁に及ぶ大作でしたが
一晩で読めてしまうくらい面白かったです。

是非‼️

人質の朗読会

小川洋子先生の『人質の朗読会』を読了しました。




小川洋子先生です。



南米のある村で、日本人7人と添乗員が乗ったマイクロバスが、遺跡観光を終えて首都に向かう帰路、反政府ゲリラに襲撃され、身代金と仲間の釈放を求める犯行声明が発表された。

拉致現場は標高2000メートル級の山々が連なる山岳地帯、目新しい情報がないまま日本国内でのニュースの扱いは次第に小さくなっていき、遠く離れた地で起きているらしい事件に人々の関心は薄れていった。

ゲリラと政府の交渉は水面下で続き、発生から100日が過ぎたある日、軍と警察の特殊部隊がアジトに強行突入し、銃撃戦が繰り広げられた末に犯人グループ5人が全員死亡、特殊部隊員2人が殉職、犯人が仕掛けていたダイナマイトにより人質となっていた8人全員が死亡した。

この凄惨な結末は、ニュースを忘れかけ、どこか楽観視していた世間の人々に大きなショックを与えた。

事件から2年後、国際赤十字が差し入れた救急箱などに仕掛けられていた盗聴器で、人質たちの音声が録音されたテープの存在が明らかになる。

テープには人質8人がそれぞれ心に残っている出来事を物語として書き起こし、各人が朗読する声が収められていた。

事件後、遺族を取材していたラジオ局の記者はテープが被害者が確かに生きていた証になると重要性を説き、かくして遺族の許可を得てラジオ番組『人質の朗読会』が放送されることとなった……。


8人の人質と1人の人質救出隊員の語りが描かれています。

オムニバス形式になっていて
それぞれが上質な短編小説となっています。

内容はいずれも些細な日常生活を回想したもので

『人質』という極限状況で語られるには穏やかすぎるものばかりでした。

8つの物語は以下の通り。
括弧内は語り手のプロフィールとツアー参加の経緯を記しています)

第一夜:杖
(インテリアコーディネーター、53歳女性、勤続30年の長期休暇を利用して参加)
第二夜:やまびこビスケット
(調理師専門学校製菓コース教授、61歳女性、研修旅行のオプショナルツアーで参加)
第三夜:B談話室
(作家、42歳男性、連載小説のための取材旅行中)
第四夜:冬眠中のヤマネ
医科大学眼科学教室講師、34歳男性、国際学会出席の帰路)
第五夜:コンソメスープ名人
(精密機械工場経営者、49歳男性、国際見本市参加の帰路)
第六夜:槍投げの青年
(貿易会社事務員、59歳女性、姪の結婚式出席のための旅行中)
第七夜:死んだおばあさん
(主婦、45歳女性、夫の単身赴任先からの帰途)
第八夜:花束
(ツアーガイド、28歳男性、勤務中)
第九夜:ハキリアリ
(政府軍兵士、22歳男性、Y・H氏の通訳により放送)

どれも面白かったのですが
個人的には『やまびこビスケット』が良かったですね。

『冬眠中のヤマネ』は先の見えないワクワク感があり

『ハキリアリ』は描写がとても豊かで

この2つも良かったと思います✌️


2014年にWOWOWでテレビドラマ化されているようです。
この後、時間があれば観てみたいと思います。

嘘を愛する女

岡部えつ先生の『嘘を愛する女』を読了しました。


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岡部えつ先生です。

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大手食品メーカーに勤める由加利は、研究医で優しい恋人・桔平と同棲5年目を迎えていた。
ある日桔平が倒れて意識不明になると、彼の職業はおろか名前すら、すべてが偽りのものだったことが判明する。
「あなたはいったい誰?」
由加利は唯一の手がかりとなる桔平の書きかけの小説を携え、彼の正体を探る旅に出る。
彼はなぜ素性を隠し、彼女を騙していたのか。
すべてを失った果てに知る真実の愛とは……。


長澤まさみさん&高橋一生さん主演で映画化もされている作品です。
映画はまだ観ていません。

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一見重苦しいテーマの作品ですが
ごく普通の恋愛小説で
サラッと読めます。
文章自体もシンプルで読みやすかったです。


共感とか感情移入とかしないで
あまり期待もしないで
淡々と読んだ方が
ラストで感動できると思います。

『嘘』が決して『悪』ではなく
『必要悪』でもなく
むしろ『必要善』であることを本作は語っています。

築き上げてきた何かを守るための嘘…
大切な誰かを傷つけないための嘘…

嘘に気づいた時
人は怒りや悲しみやいろいろな感情に苛まれますが

“嘘の半分は思いやりで出来ている”

ってことを理解した瞬間

人は優しい気持ちになれるのではないでしょうか?

お時間があれば
読んでみてください。

いや
お時間がなくても合間に一気に読めますので
是非‼️