世界の果て
中村文則先生の『世界の果て』を読了いたしました。
短篇集です。
ほの暗さの快楽
若き「実存主義作家」の最新短篇小説集
と評された一冊です。
奇妙な状況におかれた、どこかまともでない人たち。
彼らは自分自身の歪みと、どのように付き合っていくのか……。
全体的に陰鬱で難解です。
短篇小説というのは、私のようなせっかちな人間にしてみれば、結末が早くやって来るので
読み易い
というイメージしかなかったのですが
本作に関してはとにかく展開が複雑で、レトリックの罠もたくさん仕掛けられているので
読み難かったです。
掲載されている5篇の作品は次の通り。
▪️月の下の子供
芥川賞受賞作『土の中の子供』に呼応するようなものとして書かれた作品です。
幼い頃から出てくる幽霊がある日、月の光を感じてから現れなくなったというお話。
▪️ゴミ屋敷
鉄屑を集めて生きる男やもめのお話。
社会に対しての絶叫が生々しい。
中村先生曰く…
不可能と可能にまつわる小説。
▪️戦争日和
ペット交配を職業とする男と周辺の会話。
ごく普通の日常から綺麗な空を見て戦争日和を感じる変な男が描かれています。
▪️夜のざわめき
後ろをつけられた作家が女に誘われ巨大居酒屋へ。
そこから家にまで付きまとわれるお話。
▪️世界の果て
犬の死体を捨てようとする男の話。
各章が独立していますが、実は全体が繋がっています。
最後の『世界の果て』は一番難解でしたが一番面白かったです✌️
明るさは時に人を疎外することもある。
世の中に明るく朗らかな小説だけしかなくなったら、それは絶望に似ているのではないかと個人的には思っている。
↑中村先生があとがきに書かれている一節です。
う〜ん
深いなぁ。
遮光
またまた中村文則先生の著作を読了いたしました。
いや〜
最近めちゃくちハマっています✌️
先日その話を同僚のドクターにしたら
彼はすぐにネットで検索して
こう言いました。
イケメンじゃないですか?
◯◯(私の元同居人)に顔が…特に眼のギョロっとした感じが似てますね。
いやいや
似てないし💦
中村先生の方がよっぽど素敵ですし(笑)
彼の手元には、黒いビニールに包まれた謎の瓶があった…。
それは純愛か狂気か。
喪失感と行き場のない怒りに覆われた青春を悲しみに抵抗する『虚言癖』の青年のうちに描き
圧倒的な衝撃と賞賛を集めた作品です。
相変わらず陰鬱なお話です(笑)
自分のための嘘は他人のための嘘にもなり得るのか?
というのがテーマとなっています。
文庫化に際して、中村先生はあとがきにこう記していらっしゃいます。
本作を受け付けなかった人には、小説というものが平均化されていく現代において、こういう小説もまああるのだと認識してくださればと、作者としては願うしかない。
他の作品と同様、本作の背景にあるのは
です。
主人公の恋人が私と同じ名前ということもあって(笑)、お気に入りの一冊となりそうです。
この作品も多分、賛否両論、好き嫌いがはっきり分かれるのかなぁ…
しんせかい
山下澄人先生の『しんせかい』を読了しました。
第156回芥川賞受賞作です。
10代の終わり、遠く見知らぬ土地での、痛切でかけがえのない経験…。
19歳の山下スミトは演劇塾で学ぶため、船に乗って北を目指す。
辿り着いたその先は【谷】と呼ばれ、俳優や脚本家を目指す若者たちが自給自足の共同生活を営んでいた。
苛酷な肉体労働、【先生】との軋轢、そして地元の女性と同期との間で揺れ動く思い……。
とてもシンプルな青春小説です。
ノンフィクションに近いのかな?
かなり読みやすい作品でした。
読みやすいというのは、小難しい解釈などなく、淡々と書かれていて…という意味です。
淡々とし過ぎて感情移入はしにくく
さほど感動もなかったです。
『演劇塾』という特殊な世界がテーマというのもあったと思いますが。
ただ…これだけシンプルであるにもかかわらず読んでいてありありと情景が浮かんでくるのは
著者の力量なのか?
それとも
『北の国から』のドラマの記憶なのか?
作中に『離人症』を思わせる記述があり
これは結局何だったのか不明です。
精神科医としては興味深い所見でした。
※離人症…自分が自己の身体から一体性を失って体験されるような症状があり、たとえば現実感の喪失であったり、自分が自身の身体から離れて自分を見ているような体験をすることもある。
10代後半から20代にかけて好発。
お時間があればご一読していただきたい作品だと思いました。
素敵な日本人
東野圭吾先生の短編集『素敵な日本人』を読了しました。
■正月の決意
初詣に向かったら、神社に奇妙な格好で倒れている町長がいた。
何故こんな場所で?こんな格好で?
これは殺人未遂事件なのか?
■十年目のバレンタインデー
作家の男が十年ぶりに恋人と会った。
彼女は何か秘めた想いがありそうだが……。
■今夜は一人で雛祭り
一人娘が富豪のもとに嫁いでいく。
父は寂しさとともに心配する。
おとなしい娘が慣れない環境、人間関係に悩まないかと……。
■君の瞳に乾杯
アニメ鑑賞が大好きな『僕』。
友人に誘われて合コンに参加したら、とある女性もアニメが好きで意気投合。
しかし、彼女は自分や家族のことには決して触れさせてくれない。
彼女は何を抱えているのか?
■レンタルベビー
赤ちゃんを育てるということはどういうことなのか?
非婚化の進む世界で、子育てについて知るため、『赤ちゃんロボット』で擬似体験をする。
■壊れた時計
闇バイトで生計を立てる男。
とあるマンションにある彫像を盗んで来いという依頼を受けるが、その途中で住人に見つかり、誤って殺してしまう……。
■サファイアの奇跡
孤独な少女がある日神社で猫と出会った。
ささやかな交流を続けていたのだが、猫は事故で死んでしまう。
しかしその後不思議な出来事が起こる……。
■クリスマスミステリ
役者の男が脚本家の女を自殺に見せかけて殺そうとする。
計画は完璧に進んだのだが……。
■水晶の数珠
名家の長男である主人公は家を飛び出し、役者の夢を追うためにアメリカにいた。
ある日、親子の縁を切っていた父が癌で余命短いことを知る。
自身の夢に反対し、勘当までしてきた父…
彼に会うことを迷いつつも、主人公は帰国する。
しかし帰国した直後、その父から電話がかかってきて……。
登場する人物がどこか知人に似ていたり、あなた自身にも経験のあるトラブルだったり、つい思い浮かべてしまう妄想の具現化だったり、読み心地はさまざま。
ぜひ、ゆっくり読んでください。
豊饒で多彩な短編ミステリーが、日常の倦怠をほぐします。
…なんて帯に書いてありましたが
私は一気読みしました。
さすが東野先生❗️
どのお話も面白かったです。
秀作揃いでした。
ただ…長編小説ほどの醍醐味はなかったかなぁ。
オチがイマイチだったり
ヒネリが軽かったり
ま、短編なので仕方ないんでしょうね。
逆に言えば
長編小説を読む時のような倦怠感はなく
スッキリ読めたのは良かったかも。
ミステリーの色合いも“程よく”と言った感じで
むしろヒューマンドラマ的要素が強い作品も多かったように思います。
個人的には
え?って感じで騙されてしまったのは『正月の決意』と『水晶の数珠』。
『水晶の数珠』は途中でオチが見えましたが。
フツーに面白かったのは『壊れた時計』と『クリスマスミステリ』。
特に良かったのは『レンタルベビー』と『サファイアの奇跡』かな?
是非読んでみてください。
悪いものが、来ませんように
芦沢央先生の『悪いものが、来ませんように』を読了しました。
初読みの作家さんです。
彼女の唯一の拠り所は、子供の頃から最も近しい存在の奈津子だった。
そして育児中の奈津子も、母や夫、社会となじめず、紗英を心の支えにしていた。
そんな2人の関係が恐ろしい事件を呼ぶ。
紗英の夫が他殺死体として発見されたのだ。
『犯人』は逮捕されるが、それをきっかけに2人の運命は大きく変わっていく……。
いろいろなレビューに
大どんでん返し
って書いてありましたが
こんなどんでん返しはナシでしょ?
…という作品です。
紗英と奈津子の日常が描かれていて
その隙間に彼女たちの関係者のインタビューが挿入されていて
紗英の夫殺しの犯人もすぐにわかってしまうし…
なんて退屈なミステリーなんだろう…って思いました。
が、ガマンして読み進めていきました。
そして中盤くらいから違和感が生じてきたのです。
あれ?
何か変?
ページを遡り
読み返してみました。
まさか?
で、後半…
違和感の正体が確信に変わりました。
コレはないでしょー❗️💦
この作品は2回読んでみないとスッキリしないと思います。
紗英と奈津子の精神病理について…
精神科医として解説したいのですが
解説するとネタバレになってしまうので止めておきます。
まずまずお薦めの作品です。
お時間があればどうぞ❗️
蜘蛛の声
中村文則先生の短編小説です。
昨日紹介した『土の中の子供』に収録されています。
タイトルだけ見ると、芥川の『蜘蛛の糸』を想起させられますが全然違います。
本作は
蜘蛛の『声』=『幻聴』が聞こえる男のお話です。
橋の下の暗闇、世界から隠れる、意識が裂けていくような感覚、脳を刺すような硬い音・・・
様々なキーワードが撹乱しています。
男は統合失調症なんでしょうね。
↑職業柄、私はそう読んでしまいました。もし違っていたらすみません💦
『土の中の子供』よりもさらに閉塞感のある作品です。
『土の中の子供』が行き詰まり感を表現しているとしたら
この『蜘蛛の声』は混沌感…でしょうか?
・・・などと、勝手に解釈してみました。
興味がございましたら『土の中の子供』と併せてお読みいただき、その体感の違いがどんなものであったか私に教えてくださいm(._.)m
土の中の子供
中村文則先生の『土の中の子供』を読了しました。
27歳のタクシードライバーをいまも脅かすのは、親に捨てられ、孤児として日常的に虐待された日々の記憶。
理不尽に引きこまれる被虐体験に、生との健全な距離を見失った「私」は、自身の半生を呪い持てあましながらも、暴力に乱された精神の暗部にかすかな生の核心をさぐる。
芥川賞受賞作です👑
中村文則先生の小説…マイブームです。
最近読み漁っています♪
本作は被虐体験からの再生がテーマです。
かなり暴力的な描写も多いのですが
ほとんど不快感がありません。
中村先生の言葉遣いが私の感性にハマるからなんでしょうね。
感性を表現するのが上手い作家はたくさんいますが
感情に名前をつけないで表現する
ことが出来る数少ない作家だと私は思っています。
まだまだ読んでいない作品がたくさんあるので、しばらくは読書三昧の日々になりそうです✌️
読了したらまた感想をUPします。