影裏
沼田真佑先生の『影裏』を読了しました。
第157回芥川賞受賞作です。
『影裏』…“えいり”と読みます。
沼田真佑先生です。
医薬品を扱う東北の企業に勤める「わたし」は、同じ職場の日浅という男と親しくなる。
日浅の転職を機にふたりは疎遠になってしまうが、東日本大震災のあと、行方不明になった日浅を「わたし」は捜し続けていた。
やがて出会った日浅の父親は「わたし」に日浅の“裏の顔”について語り、「あれを捜すなど無益だ」と語るのだった……。
前半は五感に訴えてくるような美しい風景描写をベースとした『釣り』のお話。
途中で
え?
LGBTの話なの?
なんて戸惑っていたら
急に東日本大震災のお話に。
そっかー
震災直後の設定なんだー
って
いや
前半のお話とどう繋がるんだろう?
なんて思っていたら
親子の生々しいお話に展開…
う〜ん
文章が淡麗な割に
詰め込み過ぎかな?
なんて思いました。
詰め込み過ぎだけど
最後はさらっと終結する…
著者のテクニックみたいなものを感じました。
後半が面白かったです♪
前半がつまらなかった訳ではなく
後半の展開が良かったという意味です。
私が夢中になれるジャンルの作品ではありませんでしたが
沼田先生の他の作品も読んでみたくなりました。
短編であっという間に読了できます。
釣り好きの方は是非‼️
読まれた方は感想をご教示くださいませ🙇♀️
隠喩としての病
アメリカの作家スーザン・ソンタグの『隠喩としての病(Illness as Metaphor)』は大学の教養部時代に原書を読みました。
結構面白かったです。
続編のエイズ編はお恥ずかしながら未だ読んでいません💦
約30年もの間、進行性乳癌と子宮癌を患っていて、病者としての視点と理論には興味深いものを禁じ得ません。
最期は急性骨髄性白血病で亡くなっています。
さて…
この『隠喩としての病』は是非とも読んでいただきたい一冊だと思っています。
みすず書房から日本語版も出ていますので!
一見冷静に論破している風ですが
病者としての焦燥感とか切迫感なんかが行間に垣間見ることができ
普通に病者の手記としても解釈できる部分があると思います。
私の書いてみたいのは、病気の王国に移住するとはどういうことかという体験談ではなく、人間がそれに耐えようとして織りなす空想についてである。…病気とは隠喩などではなく、従って病気に対処するには-最も健康に病気になるには-隠喩がらみの病気観を一掃すること、なるたけそれに抵抗することが最も正しい方法であるということだが、それにしても、病気の王国の住民となりながら、そこの風景と化しているけばけばしい隠喩に毒されずにすますのは殆ど不可能に近い。そうした隠喩の正体を明らかにし、それから解放されるために、私は以下の探究を捧げたいと考えている。
19世紀半ばまで、身体を徐々に蝕んでいく類似疾患と捉えられていた結核と癌の対比について著しています。
結核は目に見える体の変化がある。色白、咳、吐血など。エネルギーが充溢する。肉体の軟化、消耗とみなせる。時間の病気。生をせきたて、霊化する。体の上部の霊的な場所が侵される病気で口にしやすく、魂の病気とみなされる。下流界層の貧困と零落の病気。環境の変化でよくなるとされる。結核による死は安楽死、繊細で美しい死…
がんは目に見えない。エネルギーの喪失。肉体の退化や侵略、魔性の懐胎、とみなせる。空間の病気、がんは地理的な隠喩が使われる。がんは食いにしにくい場所(乳房、大腸、膀胱、子宮、睾丸など)で、肉体の病気。例外は白血病。中流階級の豊かさと過剰の病気。環境の変化でよくなるとは考えない。がんは苦痛にさいなまれる死、無情な死…
こんな記述もあります。
結核もがんもそれにかかりやすい性格があるとされてきた。このような心理学的な理解は病気のリアリティを骨抜きにする。要するに、生活を悔い改めろとか、性格を変えろとか、贖罪せよとか、病気の治療とは別のことにエネルギーを使わせる。そして死は意欲の減退であるとされ、死んだものは敗者になる。
なかなか面白いでしょ?
是非‼️
炎上上等
高須克弥先生の『炎上上等』を読了しました。
「誰も言わないなら僕が言う! 」
僕は別に炎上させたいわけじゃない。
正しいことは「正しい」、間違っていることは「間違っている」
と言っているだけだ……。
暴論か? 正論か! ?
数々の言動や破天荒な行動で物議を醸す著者が、
言いたいことが言えない世の中をぶった斬る! !
僕は別に炎上させたいわけじゃない。
正しいことは「正しい」、間違っていることは「間違っている」
と言っているだけだ……。
暴論か? 正論か! ?
数々の言動や破天荒な行動で物議を醸す著者が、
言いたいことが言えない世の中をぶった斬る! !
高須先生のお人柄とか政治的理念に関してはよく存じ上げていませんが
日本において美容外科という分野(高須先生曰く、『幸福医学』と呼ぶそうです!)を発展させた第一人者として尊敬しています。
さらに
同じ医師として
医療に対するスタンスやクランケに対する想いに共感できる部分が多く
そんな訳で本書を拝読させていただきました。
特にファンとかではございません(笑)
西原理恵子さんは大ファンです。
目次は以下の通り。
文字だけ見るとまあ過激ですが💦
正論というか
当たり前のことをおっしゃっていて
個人的には『なるほど!』と思える部分も多かったです。
語り口もユーモアが溢れていて
実に面白かったです☺️
まえがき――誰も言わないなら僕が言う
第1章 ツイッターは今日も大漁
僕のことでサイバラを攻撃するな/僕はサヨククレーマーの“避雷針"/安倍首相は「憲法改正反対! 」と言うべき/殺害予告なんて全然怖くない/ウチのCMを「陳腐」と言った民進党議員らを訴える/なぜ「サッチー追悼CM」を放映したか……
第2章 フリーメイソンの会員だけど聞きたいことある?
坂本龍馬やケンタッキーのおじさんもフリーメイソン?/フリーメイソンの“組長"に成り上がる/フリーメイソングッズの分け前で内紛/日本国憲法はフリーメイソンの定款にソックリ……
第3章 誰もやらないなら僕がやる
「YES! 土俵を提供しよう! 」/熊本地震で自腹ヘリで物資を届ける/リオ五輪ナイジェリアサッカーチームの給料を肩代わり/“絶対に負けられない戦い" 「昭和天皇独白録」オークション……
第4章 いじめられても闘争心は失わなかった
いじめっ子はサルだと思え/女性教師に「オールドミス」と言って殴られる/「叩き殺してこい」父は僕にバットを渡した/「強ければいじめられない」は真実……
第5章 自分の国ぐらい自分で守らなきゃ
特攻隊の思いが理解できない新潟県知事/中韓が恐れる日本人の愛国心の復活/日本は〝家康方式〟でアメリカから独立せよ/日本国憲法は宗教の教義ではない/ウーマン村本氏は敵兵から逃げ切れるか……
第6章 中国、韓国、北朝鮮にも忖度せずに物申す
ノーベル平和賞に対抗して高須平和賞を設立/アパ宿泊拒否問題は「中国政府の不都合な真実」/本気で核を廃絶したいなら北朝鮮にも抗議しろよ/朝日新聞は旭日旗風の社旗をやめるべき/文在寅は「元慰安婦の証言はウソでした」と白状せよ……
第7章 男も女も若さと美貌を欲しがる時代
ソウルの「タカスクリニック」に文句を言いに行く/世界初! 「人造美女コンテストin北京」の審査員に/30年前に食らった“文春砲"/筋を通さず辞めたドクターは1人ずつ潰した/1年間の医業停止が巨万の富を生んだ……
第8章 日本ももう一度戦争をやってみたら?
政府は国民に早く死んでもらいたがっている/寿命60歳定年制を提案/ジジイが若者をダマせない時代になった/働きたいヤツは働き、休みたいヤツは休め……
あとがき――君たちはどう生きるか
第1章 ツイッターは今日も大漁
僕のことでサイバラを攻撃するな/僕はサヨククレーマーの“避雷針"/安倍首相は「憲法改正反対! 」と言うべき/殺害予告なんて全然怖くない/ウチのCMを「陳腐」と言った民進党議員らを訴える/なぜ「サッチー追悼CM」を放映したか……
第2章 フリーメイソンの会員だけど聞きたいことある?
坂本龍馬やケンタッキーのおじさんもフリーメイソン?/フリーメイソンの“組長"に成り上がる/フリーメイソングッズの分け前で内紛/日本国憲法はフリーメイソンの定款にソックリ……
第3章 誰もやらないなら僕がやる
「YES! 土俵を提供しよう! 」/熊本地震で自腹ヘリで物資を届ける/リオ五輪ナイジェリアサッカーチームの給料を肩代わり/“絶対に負けられない戦い" 「昭和天皇独白録」オークション……
第4章 いじめられても闘争心は失わなかった
いじめっ子はサルだと思え/女性教師に「オールドミス」と言って殴られる/「叩き殺してこい」父は僕にバットを渡した/「強ければいじめられない」は真実……
第5章 自分の国ぐらい自分で守らなきゃ
特攻隊の思いが理解できない新潟県知事/中韓が恐れる日本人の愛国心の復活/日本は〝家康方式〟でアメリカから独立せよ/日本国憲法は宗教の教義ではない/ウーマン村本氏は敵兵から逃げ切れるか……
第6章 中国、韓国、北朝鮮にも忖度せずに物申す
ノーベル平和賞に対抗して高須平和賞を設立/アパ宿泊拒否問題は「中国政府の不都合な真実」/本気で核を廃絶したいなら北朝鮮にも抗議しろよ/朝日新聞は旭日旗風の社旗をやめるべき/文在寅は「元慰安婦の証言はウソでした」と白状せよ……
第7章 男も女も若さと美貌を欲しがる時代
ソウルの「タカスクリニック」に文句を言いに行く/世界初! 「人造美女コンテストin北京」の審査員に/30年前に食らった“文春砲"/筋を通さず辞めたドクターは1人ずつ潰した/1年間の医業停止が巨万の富を生んだ……
第8章 日本ももう一度戦争をやってみたら?
政府は国民に早く死んでもらいたがっている/寿命60歳定年制を提案/ジジイが若者をダマせない時代になった/働きたいヤツは働き、休みたいヤツは休め……
あとがき――君たちはどう生きるか
好き嫌いはあるかと思いますが
ご興味があれば購入して一読ください。
本書の印税は全て台湾地震の被災者に寄付されるそうです。
イノセント・デイズ
早見和真先生の『イノセント・デイズ』を読了しました。
早見先生です。
田中幸乃、30歳。
元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。
凶行の背景に何があったのか?
産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。
幼なじみの弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は……。
筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長編ミステリー。
450頁超の長編小説でしたが一気読みしました。
その内容にグイグイ惹き込まれ、あっという間の時間でした。
これをハッピーエンドと解釈すべきなのか?
私にはかなり後味の悪いお話でした。
と同時に
悪意に満ちた人、綺麗事ばかり語る人、卑怯な人、自己満足だけの人…
不愉快な人たちばかりが登場し、憂鬱になってしまいました。
でも一番私を憂鬱にさせたのは主人公の田中幸乃死刑囚…
エネルギーの低さと視野の狭さにイライラしてしまいました。
私の診療場面でもこういう人がいます。
認知行動療法で良くなるのになぁ…
デパスを処方するだけではなく
ちゃんと治療してあげればこんな悲劇が起こらなくて済んだかもしれないのに…
ま、それ以前に幸乃は治療を拒否したでしょうが・・・
などと思ってしまいました💦
よくあるパターンのミステリーですが
デリケートなタッチの文体で
最初、女性の作家さんが書かれたのかと思いました。
湊かなえ先生的な感じ(笑)
面白かったです。
お薦めです。
是非‼️
死んでいない者
滝口悠生先生の『死んでいない者』を読了しました。
第154回芥川賞受賞作品です。
滝口先生です。
秋のある日、大往生を遂げた男の通夜に親類たちが集った。
子ども、孫、ひ孫たち30人あまり。
一人ひとりが死に思いをはせ、互いを思い、家族の記憶が広がっていく。
生の断片が重なり合って永遠の時間が立ち上がる奇跡の一夜。
最初の数頁を読んだところでいきなり挫折💦
登場人物が多すぎて
誰が誰やら全くわからなくなりました。
なので…
家系図を書きながら再読しました。
作品は一言で言えば
脱力系お通夜物語
でしょうか?
いろいろな人が様々な視点で家族や人生を語っていきます。
軽快な語り口の中に垣間見る『生の不条理』みたいなのが、とてもアイロニックでもあり、とても面白かったです❗️
読後に素朴な疑問…
この小説のタイトル『死んでいない者』ってどっちの意味だろう?
死んでもう存在しない者
っていうことなのか
まだ死んでいない者
ってことなのか…
どちらとも取れるし
きっとダブルミーニングなのかも❗️
なんて思いました。
読みやすい文章だし
お薦めの作品です。
是非‼️
愚行録
貫井徳郎先生の『愚行録』を読了しました。
幸せを絵に描いたような家族に突如として訪れた悲劇。
深夜、家に忍び込んだ何者かによって一家四人が惨殺された。
隣人、友人らが語る数多のエピソードを通して浮かび上がる『事件』と『被害者』。
理想の家族に見えた彼らは、一体なぜ殺されたのか……。
悪意に満ちた人ばかりが登場する
しかも大変後味の悪い作品でした。
被害者夫婦に纏わる6人へのインタビュー形式で物語は進み
その間隙に
妹が兄に語りかけるようなモノローグが挿入されていて
ん?
これは何だ?
なんて思いながら読んでいくうちに
それぞれのピースが繋がって全容が見えていくという…
極めて巧みな手法が採用された小説です。
人の心の基底にある嫉妬と羨望がこれでもかと言わんばかりに歪に表現されています。
読んでいて憂鬱になりました😭
ミステリーなのに、謎解きそっちのけで心が抉られていきます。
スゴイ作品ですね。
つくづく人間が嫌になります。
同じくらい慶應義塾大学も嫌になります(笑)
私…現役の時に慶應の医学部を受験しましたが落ちました。
その時は悔しかったけれど、本書を読んで慶應に入らなくて良かったと思いました💦
タイトルの『愚行録』ですが
『愚行』の本態は
虐待をした親でもなければ
殺人犯でもない
ましてや被害者夫婦の若き日の軽率さでもなく…
このインタビューに答えた6人の陳述行為こそが『愚行』を意味しているのではないかと私は思いました。
妻夫木聡さん主演で映画化されているようなので、近々観てみようと思います。
完璧な母親
まさきとしか先生の『完璧な母親』を読了しました。
彼女の作品を読むのは初めてです。
流産を重ね授かった最愛の息子が池で溺死。
絶望の淵で母親の知可子は、息子を産み直すことを思いつく。
同じ誕生日に産んだ妹に兄の名を付け、毎年ケーキに兄の歳の数の蠟燭を立て祝う妻の狂気に夫は怯えるが、知可子は歪な〝完璧な母親〟を目指し続ける。
そんな中『あなたの子供は幸せでしょうか』と書かれた手紙が……。
平易な文章で、余計な描写もなく、ある意味読みやすい小説でした。
3部構成となっていて
第1章は友高知可子と亡くなった兄の身代わりの妹・波琉子の物語です。
そして第2章は母親から虐待されて育った田尻成彦の物語で、まるで別の物語が挿入されているような印象がありましたが
第3章および終章で全てが繋がっていきます。
そのプロセスは大変面白かったのですが
メインストーリーの狭間に登場する人たちのエピソードが中途半端で
(もっと言えばムダにしか思えなかった💦)
さらに突き詰めて繋げていけばもっと面白くなったのではないかと思いました。
登場人物のほぼ全員が病んだ人たちでしたが
各々の心理描写と病理がイマイチの感じもありました。
亡くなった兄と同じ名前を付けられた妹…という本作の設定に、あのサルバドール・ダリを彷彿しました。
(以前このブログでお話したことがあったと思いますが)
半日もあれば読了できる小説です。
後味は決して良くありませんが
お時間があれば是非❗️